没落令嬢の奴隷生活 第7話 初体験

 最初に私を買った客は、ずいぶんと高い金を出したようだった。
 私の国でも処女には特別な意味があるが、遙か遠方のこの国でもそれは同じらしい。

 客は太り気味の中年男性で、やはり肌が浅黒かった。
 小金を持っていると言っても、異国の奴隷を使っているような娼館に来る程度の男だ。本来なら、侯爵令嬢の私には声を掛けることすら難しい身分だろう。
 しかし今は、その男に品定めの視線を無遠慮に浴びせられても、黙って耐えなければならなかった。

 男に手招きされて、私は「ヤー」と言って近寄った。
 娼館に来てから唯一 教えられた言葉だ。意味は肯定。
 否定の言葉は教えられていない。奴隷には許されない言葉なので、覚える必要はないということだろう。
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 装飾品だけを身に着けた格好は全裸よりも恥ずかしかった。
 海賊たちに股間を散々見られて恥辱には慣れたつもりだったが、場所が変わり相手も変わったせいか、どうにも隠したくなってしまう。

 顔を見られるのも性器を見られるのも同じようなもの。見られるくらいは何ともない。
 航海の最後の方なんか、そうやって達観してみたりもしたが、今はとてもそんな心境にはなれなかった。
 隠すべき箇所を晒されるのは、それだけで屈辱的なことだ。
 海賊たちに輪姦されている間に、そんな当たり前の感情を忘れていたらしい。

 しかしどうだろうか。
 今は屈辱を感じているが、客を取らされ続けていたら、またいつか慣れてしまうのではないか。
 そんな状態の私を果たして貴族と言えるのだろうか。
 初対面の平民相手に平然と股を開くようになった私を誰が侯爵令嬢だと思うだろう。

 恥ずかしいことは嫌なのに、平気になりたくもない。
 どう転んでも私には苦痛しかないのだった。

 男はいきなり私の股間に陰茎をあてがってきた。
 ほとんど濡れていないそこに先端が沈み、さらに突き進む。
「ひ、ぃ……」
 肛門を犯された時には全く感じなかった痛みに襲われ、怯え声が漏れてしまう。

 もし男が不機嫌になったら鞭を打たれるかもしれない。
 その可能性は低いと分かっていても私の身体は縮こまる。
 そこまで恐れる程に鞭打ちは地獄の苦しみだった。
 二度と味わわなくて済むのなら私は いくらでも媚びを売れるだろう。
 純粋な痛みの前では貴族も平民もなかった。

「うっ」
 深々と貫かれ、またしても私は声を上げた。
 けれどそれが最後だ。後はどれだけ突かれようとも我慢した。
 すべては、あるかどうかも分からない鞭打ちから逃れるためだった。

 男の腰使いがそれほど乱暴ではなかったおかげというのもある。
 痛みは程々に収まってくれた。
 先端が入っただけで、肌が裂かれるような痛みが走ったから、男に思う存分突かれたら一体どれほどの激痛になるのかと恐怖したけれど、結局のところ、最初のひと突きが一番 痛かったように思う。

 痛みよりも、身体を汚される感覚の方が辛かったかもしれない。
 男は陰茎を突き込みながら、私の唇を執拗に吸った。舌を入れ、口内を蹂躙してきた。
 お互いの口の周りが唾液まみれになった頃、ようやく男は腰の前後動に集中し始めた。
 しかしそれは長く続かず、今度は私の首筋に吸い付いてきた。

「…………!」
 おぞましさに私は大声を上げそうになった。
 寸前でなんとか思い留まる。

 海賊たちに輪姦された時も身体中を舐め回されたものだが、彼らはどこか醒めていた。
 女を性処理の道具としか思っていないと言うか……。
 酒や食事と同等の娯楽として性交を捉えている節があった。

 一方、いま私を犯している男は、完全に性欲の虜となっている。
 興奮しきって息を荒げており、獣のごとく私の身体を舐め回している。
 誰に急かされているわけでもないのに、なぜ慌てる必要があるのか。男の心情は理解不能で、なおさら私に嫌悪感を抱かせた。

 首を舐め尽くされた後は胸が標的になった。
 そこには特に時間を掛けていたと思う。
 乳首の感覚が鈍くなるまで舌で刺激され続けた。

 わずかな刺激で乳首はすぐに硬くなった。
 尖らせた舌先で突かれたり、舌で こね回されたりすると、むず痒さに悩まされた。弾かれたように身体が震えたり、声が漏れそうになったりもした。たぶん、快感に属する感覚だったのだろう。
 それが分かっていたから私は必死に自分を抑えた。
 客との性交に溺れたら取り返しが付かなくなりそうだし、なによりそこまで堕ちたくはない。

 胸から男の口が離れて安堵したが、本格的な腰使いに移行された時、私は動揺した。
 気のせいかもしれないが、膣内の滑りが良くなっているように思えたのだ。
 もし、乳首への刺激で膣が潤ってしまったのなら、恥ずべきことだろう。

 見ず知らずの男に犯されて快感を得たとは思いたくない。
 これが愛し合った男女のことなら納得できる。
 けれど、私に陰茎を挿入しているのは、幼馴染みの男の子ではなく、婚約相手の貴族でもなく、会ったばかりの中年男なのだ。
 私は身体を揺さぶられながら涙を流した。

 無言で泣く私に男は何の興味も示さず、ひたすらに快感を貪り、射精した。
 陰茎の脈動が膣を通して伝わってくる。
 愛の結晶であるはずの子種をこんな形で受けなければならないのはただ悲しかった。

――――

 客が引き上げたので私は寝具を取り替えようとした。
 最悪な初体験だったけれど、海賊には数え切れないくらい肛門を犯されているわけだし、処女を失ったことくらい、今更という感がある……。
 なんとか自分にそう言い聞かせて、大したことではないと思い込もうとした。
 けれど、寝具に染み付いた小さな赤い染みが目に入ると、しばらくの間は作業ができなくなった。

 その日は5人の客を取らされた。
 乱暴な客は幸い居なかった。
 初日だから楽な客を回されたのかもしれない。
 言葉が通じないので確かめようがないけど、実際、翌日からは、問題のある客がたびたび訪れるようになった。

 よくあるのは暴力だ。
 客の言うことが分からない私は特に多く殴られただろう。
 四つん這いで犯されている時にお尻を叩かれるのなんて可愛いものだった。

 多くの場合は手加減されていただろうが、頬を平手打ちされて倒れ込むことも何回かあった。
 髪を掴まれ、顔を男の股ぐらに押し付けられたこともあった。
 何をされても私は「ヤー」と返事をして震えながら奉仕した。

――――

 暴力はもちろん嫌だが、馬鹿にされるのも辛かった。
 指示を誤解して見当違いな行為をしてしまい客に嘲笑される時、私はいつも顔を真っ赤にしてしまう。
 それがまた客を笑わせる結果になったこともある。
 この国の言葉を理解できないことがそんなにも可笑しいのだろうか。

 悔しくて反射的に客を睨んでしまった時は、思い切り殴り付けられた。
 暴力に怯んだ私は謝罪しようとしたが、ろくに喋ることができなかったため、状況に即していない言葉だと知りながらも「ヤー」と言うしかなかった。
 腹を立てていたはずの客は、それを聞くと、私を見下ろしながら唇を歪めた。

 その場では悔しくて堪らなかったのに、夜になってから感情が変化した。
 怒りが悲しみに変わってしまったのだ。
 なかなか眠ることができず私は嗚咽を漏らした。

 他の奴隷娼婦たちとの雑魚寝を強制されていたので、私の泣き声は彼女らにとって迷惑でしかなかっただろう。
 泣いている私に声が掛けられた。
 強い口調だった。慰めの言葉ではなかったと思う。
 たぶん、「うるさい」とか「静かにしろ」とか、そんなような意味だろう。

 味方はひとりも居なかった。同じ奴隷たちの中であってさえ私は孤独だった。
 この国の言葉を話せない奴隷が他にひとりでも居れば、たとえ私と意思疎通ができなくても、連帯感を持つことはできただろう。しかし私以外の奴隷は全員 言葉に不自由していなかった。
 誰とも慰め合えず、助け合えない。
 私は自分の指を噛んで泣き声を抑えた。
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