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SS・確定している過去と未来

ショートショート・確定している過去と未来

 俺には双子の兄が居る。
 外見はそっくり。学校の成績も同程度。性格も似たり寄ったり。何でも気が合うもんだから、幼い頃は仲が良かった。
 しかしそれは昔の話だ。28歳になった現在でも、一緒にタイムスリップ理論の研究をしているが、あまり仲が良いとは言えない。何もかもを見透かしたような兄の態度がどうにも癇に障るのだ。
 何よりも気に入らないのは兄の目だった。あの、人を見下した目。誰に対してもそういう目を向ける兄だが、俺に対しては特に蔑みの色が濃いような気がする。
 被害妄想である可能性は否定できないが、普段の素っ気ない兄の態度から考えても、気のせいで片付けられることではないように思えてならない。
 まあ、確かに兄は、研究者として俺よりも遙かに優秀だ。タイムスリップ理論構築の初期段階は兄の独壇場だったし、タイムマシン開発の資金調達はすべて兄が担ってきた。28歳という若さにして巨大プロジェクトを統括できる立場にあるのも、兄の先見性と資金力によるものだ。
 俺は共同研究者として名を連ねているが、実質的には助手に過ぎない。それは研究所でも周知のことだから、タイムマシンが完成した際は、まず間違いなく、功績のほとんどを兄が持って行くことになるだろう。
 ただ、兄は実績相応の苦労もしているらしく、最近は白髪が俺よりも少しだけ目立つようになってきた。寝る間も惜しんで研究に励んでいるせいだろう。その努力は認めなくてはならない。
 俺はいつも自分にそう言い聞かせてきた。
 しかし、やはり簡単に割り切れるものではない。
 タイムマシンの完成が近付くにつれて、いつしか俺は、密かに逆転の機を窺うようになった。兄の金と名誉を自分の物にできるなら、どんなリスクが伴おうと構わない。何だってやってやる。それほどまでに思い詰めていた。

 転機は突然 訪れた。
 タイムマシンが完成した日、兄が言った。
「実はな、タイムスリップ理論の枠組みは、未来からやってきたお前の知識だったんだよ」
 ということらしい。大学時代の出来事なんだとか。
 言われてみると、納得できる要素が多々ある。
 兄が変わったのは大学生の時だった。どこからか大金を手に入れてくるようになり、研究ゼミで独創的な意見を次々と出すようにもなり、あと、ついでに言えば、なんとなく雰囲気にも変化があったように思う。
 俺たちは双子で、外見も知能もほぼ同じだったのに、一体どこで差が付いたのか、と、常々不思議に思っていたのだが、まさかそういうカラクリだったとは……。

 かくして俺は、兄の指示でタイムマシンに乗ることになった。
 1時間が経ったら自動的に元の時代に戻るという設定だから、あまりゆっくりはできない。時間に追われながら行動していたら1時間なんてすぐだろう。
 もちろん俺には、タイムスリップ理論を過去の兄に伝えるつもりなんてない。
 殺してやる。俺から教わった未来の知識で金と名誉を手にしたくせに、当然のようにそれを独り占めする兄を、許してはおけない。
 過去の兄を殺し、タイムスリップ理論を俺自身に教える。それで人生大逆転だ。
 殺せれば、だけど。

 兄は、俺を過去に送りさえすれば自分の意のままに動くと確信しているようだった。タイムスリップ理論が兄の自信となっているのだろう。
 過去も未来も最初から確定している。それが、タイムスリップ理論の根底だ。
 タイムスリップして過去に行きその時代の人間を殺すことはできる。しかしそれは、あらかじめ歴史の流れに組み込まれた出来事に過ぎない。俺はこれから人類初のタイムスリップを敢行するわけだが、改変の結果は、今この世界にすでに反映されているのだ。
 だからつまり、俺が8年前に飛んで誰かを殺すとしたら、そいつはもう8年前に死んでいるはずだし、兄が今日タイムマシンを完成させるという事実は、俺が過去で何をしようと絶対に覆らない。
 そういう前提を元にタイムスリップ理論を組み立てた兄は、実際、見事にタイムマシンを完成させたわけで、となると兄の持論も正しい、と判断せざるを得ない。
 どんな成り行きになるのかは分からないけれど、俺がどんな想いを抱いていようと、結局は兄にタイムスリップ理論を教えてしまうのだ。
 とはいえ、最初から諦める気なんて俺にはない。殺す。たとえ失敗に終わると分かっていても、試してみなければ気が済まない。

 自信満々の兄に見送られて俺はタイムスリップした。
 そして俺は自分の家に入って待機し、帰宅してきた兄に包丁を突き立てた。
 兄は倒れ、そのまま動かなくなった。
 死んだ……。
 どうやっても殺せないはずなのに、殺せてしまった。
 おかしい。
 過去も未来も確定しているんじゃなかったのか?
 とにかく死体を処分する。
 その後、タイムスリップ理論を伝えるべく、俺は自分自身を捜した。
 そうこうしているうちに1時間が過ぎてしまったが、元の時代に戻されることはなかった。
 いつ戻される? いやそもそも、本当に戻れるのだろうか?
 1時間で自動的に戻るという設定は、俺を過去に送り出した後からでも、元の時代に残された装置をちょっと弄るだけで簡単に変わってしまう。兄がその気なら、俺を過去に置き去りにすることだって可能なのだ。
 しかし、どうなんだろう。仮に兄の仕業だとしても、理由が分からない。俺の行動をモニターで見られるわけではないし、自分が殺されたことなんて兄には分からないはず。
 最初から1時間で戻すつもりはなかったということか?
 過去に来てからは 分からないことばかりだ。

 数時間も探して ようやく道端で自分自身を見付けた。
 急いで声を掛ける。
「な、なあ、おい」
 歩いていたそいつは、俺を見ると足を止めた。
 そして言った。
「なに慌ててるんだよ、兄貴」
 兄貴? 俺が?
 …………。
 ああ、そうか。そういうことか。
 俺はすべてを悟った。
 この時代の俺自身からすれば、自分と同じ外見の人間に会ったのだから、兄だと判断するのは当然だろう。
 そしてそれは、この時代に生きるすべての人にも同様のことが言える。本人が兄だと主張すれば兄だと認識する。
 もちろん、28歳と20歳では外見に微妙な違いがあるだろうし、兄と弟が入れ替われば何かと齟齬も起きるだろうが、おそらく大したことにはならない。たとえ疑われたとしても、ふたりの姿を同時に見せてやれば良いのだ。これほどハッキリした証拠は無いのだから。
 俺は今日この瞬間から兄として生き、金と名誉を手に入れる。

 これで色々と説明が付く。
 俺には、兄にタイムスリップ理論を伝える気なんて全くなかった。なのにタイムスリップ理論を兄が知り得た理由は何か。俺自身が兄に成り代わったからだ。
 兄が自信満々で俺を送り出したのも当然と言える。俺が兄になるのだから、元の時代のあの自称兄は、すべての成り行きを完全に知っている8年後の俺自身ということになる。そりゃあ、自信満々にもなるだろう。
 資金調達を軽々とこなせるようになったのも、未来の知識を利用していたからに違いない。
 そして、なにより重要なのは、過去も未来も不変のままであるということ。兄は殺されたが、俺が成り代わることにより、他の誰もこのことに気付かない。兄は生きていることになっている。この時代においても、未来においても。

 ……その後、俺は投資で大金を稼ぎつつ、大学のゼミで先進的な発言を繰り返した。やがて、他学部の教授すら俺に注目するようになった。
 周りの人間がみんな馬鹿に見えた。俺の言うことにいちいち驚き、感心する。まるで、自分が世界で一番 賢くなったかのようだ。
 実際に知識の面ではそうだろう。誰も知らないことを俺だけが知っている。それを再認識するたびに俺は優越感で ほくそ笑んだ。
 ただ、弟ということになっている過去の俺自身を見ている時だけは同情心が芽生えた。劣等感を抱えながら日々を過ごす気持ちが俺には100%理解できるのだ。
 しかし、当時の俺は、躍進する兄の視線を蔑みだと解釈し、余計に鬱屈していった。
 俺はそのことを思い出し、憐れみの感情を表に出さないよう気を付けていたのだが、被害妄想に陥っている過去の俺は、それを冷淡だと受け取り、ますます捻くれていくのだった。
 まあ、仕方ない。これも確定していることだ。過去も未来も覆らない。

 8年後。
 俺はタイムマシンで弟を過去に送ろうとしていた。いや実際には弟ではなく過去の俺自身だが。
 標準設定では、1時間が経ったら自動的に元の時代に戻るようになっているが、俺は目盛りを弄くって、設定時間を無期限に変えた。


確定している過去と未来・あとがき
 ミステリーに良くある双子の入れ替わりトリックを、タイムスリップによる過去改変と組み合わせてみました。『過去も未来も改変込みで最初から確定している』というのが今回の鍵です。
 ショートショートは基本的に、自然とアイデアが浮かんできた時にだけ書くというスタンスですが、今作に限っては「ショートショートのアイデアを捻り出そう!」というテンションで意識的に考えました。
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